テレビADとは、最底辺の何でも屋さん
ADとは”アシスタントディレクター”の略で
「番組の最底辺で働く何でも屋」です。
ディレクターのアシスタントだから「AD」です。
その名の通りディレクターの手足となって働くのが仕事です。
合コンで
ADやってるんです!
と言うと、
えーっ!マジ大変じゃーん。
休み無いんでしょ?
と100%聞かれる激務の代名詞のような職業でしたが、働き方改革のおかげで最近は昔に比べればだいぶ楽になりました↓
テレビ番組の制作をする人は、みんなADからキャリアがスタートします。
ADの取りまとめ役は『チーフAD』と呼ばれたりします。
ADの仕事内容を日本一詳しく紹介します!
番組制作に関わる全ての雑務をやるのがADです。
とにかく仕事がたくさんあって番組によっても違うのですが、最近、就活生にも見て頂いているようなので、現役テレビディレクターの僕がどの転職サイトよりも詳しく解説したいと思います。これを見ればADのほぼ全てが分かります。
バラエティ番組のADの仕事の流れはこちら↓
※週1レギュラー放送のバラエティ番組を想定しています。
結構多いのですが、それがADという職業です。
ひとつずつ解説します。
(画像はテレビADを描いたドラマ『私のおじさん』より)
①ネタ会議
(番組プロデューサー、ディレクター、作家などが集まります)
まず番組で取り扱うネタや、出演するタレントを会議で決めなければなりません。
ADは会議室の予約、会議資料の準備、板書などを行います。
会議資料自体をADが作らなければならない場合もあります。
ネタ会議で方向性が決まったら担当ディレクターがVTRにするべく動き出します。以後、担当ディレクターからたくさんの指示が飛んでくるので、その全てを忠実に素早く遂行するのがADの仕事になります。
②リサーチ
(↑リサーチを振られ面倒くさそうなAD)
会議で決まったネタをVTRにするべく情報を深く掘り下げます。
たとえば「東京の進化系ラーメン! おすすめトップ10」みたいな企画があったとします。その場合、ADは東京のラーメン店をしらみ潰しに調べるのですが、「進化系ラーメン」と言われても色んな考え方があります。新オープンした店なのか、今までにない味なのか、ミシュランに載るような店なのか、見た目が奇抜な物なのか…、進化系の目線づけによって調べ方も変わってきます。
その目線づけはある程度ディレクターがやってくれます。
これと、あれと、それと調べといて!
という感じで方向性が示されるので、その方針に従って調べます。
リサーチ方法は主に「ググりまくる」「雑誌や新聞・本を調べる」「電話する」の3つです。
リサーチ内容をもとにディレクターが台本を作るので、リサーチでおもしろ情報がどれだけ吸い上げられるかによって番組の質が変わってきます。
リサーチが甘いと
これじゃ台本書けないよ!
これも、あれも、それも
もっと詳しく調べて!
という文句が飛んできて何度でもやり直しになります。
逆に
こんなに面白いです!
あんなに面白いです!
そんなに面白いです!
というように、たくさんのおもしろ情報を出してくれるADは一目置かれます。
ネット情報だけじゃなく、あらゆる施設に電話連絡をして、VTRに必要な活きた情報を集めるだけ集めます。
③仕込み(アポ取り)
リサーチの内容をもとにディレクターが台本を作ったら、
ADは台本に従って、ロケをする場所、人、小道具などの全てを用意します。中でも取材先にアポを取る事を「仕込み」と言いますが、
ここと、そこと、あそこを仕込んどいて!
というディレクターの指示のもと、たくさんの取材先に連絡を入れることになります。
グルメ番組だったら料理店、街ブラだったら商店街や施設、再現ドラマだったらハウススタジオや街中、釣り番組だったら港や漁師、というように番組によって必要なロケ先は変わります。ロケ先が多岐にわたることもありますが、その全ての仕込みを行うのがADの仕事です。(タレントのブッキングや技術の仕込みはAPさんがやってくれる事が多い)
先ほどの「②リサーチ」と「③仕込み」がADの仕事の大半を占めており、スピーディーさも求められるので最も重要かつ面倒な仕事になります。その詳細については別記事で説明しておりますので↓ここでは割愛します。
最近は『アポなしロケ』なんて番組を見かけるようになりましたが、そういう番組ではADの仕事が半減してるはずなのでラッキーですね。
④ロケ準備
ロケ先の仕込みが終わったらロケの準備です。
ADの仕事はロケのスケジュールを作ったり、スケジュールを技術会社(カメラマンなど)に伝えたり、カメラなどの機材チェックをしたり…
ロケにあれと、これと、それも必要だから準備しといて!
と言われたら、小道具を買い出しに行ったり。地方ロケの場合は電車のチケットやホテルを予約したり…。
ロケ前に現場を下見(ロケハン)しに行くこともあります。
ロケ直前までディレクターの台本は変わっていくので、それにうまく対応しつつロケに必要な全ての物を揃えます。忘れ物をしないように注意!
⑤ロケ
いよいよロケ本番!
現場のテンションを盛り上げたり、カンペを出したり、小道具を用意したり、ドリンクを買いに行ったり、時にはカメラを回したり…
ADの仕事は、ディレクターのサポートをしながら段取りよくスムーズにロケが終わるよう立ち回ることです。
「段取りよく」というのがポイントで、
次のシーンで
あれと、これと、それも使うから
スタンバイしといて!
もう準備できてます!
いつでもOKです。
なっ…なにっ!!
というように、先読みをしながら動けるADは重宝されます。
⑥デジタイズ(編集準備)
ロケの後はディレクターが編集するので、その準備を行います。
(編集ソフトは「Premiere Pro」か「Final Cut Pro 7」を使っています)
編集準備でまず行うのが「デジタイズ」です。
デジタイズはADの仕事の基礎であり、入社したら一番最初に教えられる作業として有名です。ボタンを押せばパソコンが勝手にやってくれるので超簡単な作業ですが、これをミスると編集が遅れるのでディレクターが怒ります。デジタイズが正確にできているか、しっかりと確認しましょう!
⑦サブ出し編集
ディレクターがパソコン上で編集したデータを元に、編集所で映像を加工したり、テロップを入れたりします。
↑こんな感じの編集所に一日中こもってサブ出し編集を行います。
ADの仕事は編集に使う映像や写真データの取り寄せ、商品名などテロップ情報の確認、昼食・夕食の出前注文などです。
あの映像とこの映像とその映像も使いたいから取り寄せて!
と、急に言われても対応しなければなりません。
しかし、それさえしっかりしていれば、やる事はほとんどありません。深夜になると寝落ちします。
⑧サブ出しMA(エムエー)
サブ出し編集が終わったらMAです。
ナレーション録りもMA作業のひとつです。
ADの仕事はナレーション原稿のコピーや、ナレーターさん用の水を買ったり、発音や情報に間違いがないかチェックしたりします。
ナレーションの情報が間違っているとADが怒られるので注意!
⑨収録準備
スタジオ収録に必要な全ての準備もADが行います。
カンペを作ったり、台本を刷ったり、大道具さんに美術品を発注したり、必要な小道具を買ってきたり…、番組によってやる事は違います。
「⑦サブ出し編集」や「⑧MA」作業と同時並行の過密スケジュールで行われるので、スタジオ収録の前は徹夜になることも多いです。
【深夜4時】
なんだこのカンペ!
見づらいから全部やり直し!
(マジかよ…)
みたいな事があると(よくある)、永遠に準備が終わらないので気を付けましょう。
⑩スタジオ収録
サブ出しVTRが完成して収録準備が終わったら、いよいよ収録です!
ADの仕事は、タレントを呼んできたり、カンペを出したり、フロアディレクターをサポートしたり、小道具をスタンバイしたり、大声で笑ったり…楽しい収録になるよう全力を尽くすこと。
どんなハプニングにも素早く対応しましょう!
(↑慌てるとこうなっちゃう!)
徹夜続きの収録終わりはこんな感じになることもあります↓
収録が終わると、ちょっと安心します。
⑪本編編集(ほんぺんへんしゅう)
スタジオ収録が終わると、ディレクターがCMの尺なども計算しつつ、サブ出しVTRとスタジオ収録を合体させて最終的な編集を行います。これを「本編編集(ほんぺんへんしゅう)」と言います。
ディレクターが編集したデータをもとに、
こんな感じの編集所にまた引きこもって、最終的に一本の番組として仕上げます。(2時間番組だと数日間かかったりする)
ADの仕事は、最終的な情報の確認とご飯の出前注文など、基本的にはサブ出し編集と同じです。
⑫本編MA
本編編集が終わったらMAです。ADの仕事はサブ出しMAと一緒です。
ただし、情報が間違っていたらナレーションを直すチャンスはこれで最後です。一言一句、間違いがないかをしっかりと確認しましょう。
⑬情報確認(コンプライアンスチェック)
プロデューサーたちが完成したVTRを見ながら最終的に情報の間違いがないかをチェックします。
店名や人の名前、商品名や値段に間違いはないか、車のナンバープレートが映り込んでいないか、差別的な表現はないかなど、放送しても問題ないかをワンカットずつ確認して行く作業を『コンプライアンスチェック』と言います。
この時、情報の確認はADが集めた資料によって行われます。
人名は公式HPから、店名や商品名などはお店の人に書面で確認、映り込んでいる一般人の出演承諾書など、全ての資料をADがかき集めてプロデューサーに提出します。
情報に疑問点があるとプロデューサーから鬼電されたり、
こんな感じで詰めよられたりします。笑
さらに情報のソースがWikipediaとかだとめちゃくちゃ怒られるので
しかるべき場所から提供してもらった正しい情報ですよ!
ということを、ADはしっかりと説明できるようにしておかなければなりません。
最近のテレビはコンプライアンスチェックにかなり力を入れています。
テレビ朝日の場合は、プロデューサーだけでなく担当ディレクターやAD、作家などがわざわざ一同に集まって、ワンカットずつ情報をチェックする『危機管理プレビュー』なるものが存在します。
とにかくテレビはコンプライアンスに敏感なのです。
間違いが見つかったらもちろん編集で直します。
それでも間違いは起こるのですが、すみません…。
⑭納品(オンエア)
コンプライアンスチェックと直し編集が終わったら、テレビ局にテープを納品します。(テレビは『テープ』で放送してるのです)
納品はADの最後の仕事であり、
道中で何かあったら大変だ!
ということで「タクシーで行かなければならない!」という謎ルールが存在したりします。(それほど納品テープは大事なのです)
あとはオンエアを待つだけ!
オンエア後には家族や知り合いから連絡が来ることもあります。
よかったよかった。
(振り出しに戻る)
テレビADの仕事が「激務」と言われる理由
以上、ADの仕事の流れをざっくりと見て来ました。
ここまで読んで頂けた方なら分かって頂いたと思うのですが、ADの仕事は多岐に渡ります。しかもこれらが2週間単位のスケジュールで動いています。(週1回の番組は、隔週で2本撮りが一般的)
つまり、これらの仕事を2週間ずつ永遠に繰り返していくわけです。息つく暇がないためADの仕事は「激務」なのです。
これらの激務を緩和するため、複数の制作会社が入ってローテーションを組んでいる番組もあります。
テレビADが「雑用係」「底辺」と言われる理由
ADが「雑用係」とか「底辺」と言われる理由は2つあります。
・ディレクターの言われた通りに動くから
「仕事内容」を見て頂いたら分かると思いますが、ほとんど雑用です。ADの仕事には専門性がありません。ぶっちゃけ誰でもできる仕事なのです。
しかも
あれと、これと、それも
やっといて!
という、ディレクターの指示に従いながら動く必要があります。
時には
あれと、これと、それも
やっといて!
(えっ?あんた誰…)
みたいに、プロデューサーやAP、カメラマンなどの技術さん、メイクや衣装さん、タレント、知らない謎の人などなど、あらゆる人から指示が飛んできます。悪い言い方をすると『スタッフ全員の小間使い』です。
なので「雑用係」「底辺」という印象がついてしまうのです。
ディレクターによって仕事のキツさが変わる
ADはディレクターの下で仕事をするため、
その忙しさは「上についたディレクター」によって大きく変わります。
ディレクターが仕事に厳しかったり、せっかちだったり、不安症だったり、こだわりが強かったりすると、ADが大変になります。
今度のロケで
あれだけ用意しといてー
で済むディレクターもいれば、
あれと、これと、それも用意して!
念のため、あれも用意して!
いざいという時のため、これも用意して!
何かあったら大変だから、それも用意して!
というディレクターも存在します。
分かりました…。
(絶対、そんな使わないだろ…)
予想通り、実際使わなかったりします!
ほとんどの作業が無駄に終わることもあります。
僕もそういうディレクターの下についた時は苦労しました…。
でも、ADには一切の選択権が与えられません。
(どうしても拒否したい場合は、それ相応の理論を持ってディレクターを説得しましょう!)
いつも相性が良いディレクターと仕事できるとは限りません。ディレクターになる前に辞めてしまうADが多いのは、そんな理由もあります。
ADは、理不尽さとの戦いでもあるのです。
働き方改革でADはもはやホワイトだ!
ただし『働き方改革』の影響でADの仕事は大きく変わりました。
昔はマジで24時間労働が当たり前だったのですが、今はしっかり8時間労働です!残業時間もプロデューサーが管理しているので、
あんた働きすぎ!今月は残業ダメ!
あざーっす!お疲れっしたー!
と、普通に家に帰れるようになりました。
単純にADの仕事量は3分の1以下になりました。
その分、ADの人数を増やしたり、ディレクターの仕事量を激増させる事で対応しています。
(詳しくはこちらの記事に書いてます↓)
ADをやるメリットは「ディレクターになること」だけ
ADを目指す方にとって厳しいことを少しだけ書いておきます。
ADという仕事は「誰でもできる」し「雑用係」だし「ディレクターの指示通りに動くだけ」ということは先ほど書きました。
つまり、ADの仕事は
「誰でもできる」→スキルがつかない 「雑用係」→面白くない 「ディレクターの指示通りに動くだけ」→気に入らない
ということであり、AD期間は人生においての苦行です。
それでもADをやるのはディレクターになるためです。
ほんと、コレだけ。
残念ながら
ADってサイコー!俺の天職!
定年になるまで一生ADをやっていくんだ!
という人間はこの世に一人も存在しません。
(いたらごめんなさい)
就活生がテレビ業界に就職する理由は、
・楽しそう
・芸能人に会える
・面白い番組を作りたい
だからADをやってみたい!
という方が多いと思います。
最初はそんな軽い気持ちで全然OK!
(僕もそうでした)
確かに芸能人にも会えるしロケや収録は盛り上がるので、楽しい気分は味わえると思います。
しかし、働いているうちに「何のスキルもつかない」「ディレクターの指示通りに動いているだけ」という現実に気づきます。
そして、ネタを決めるのはディレクターだし、台本書くのはディレクターだし、ロケを仕切るのはディレクターだし、編集するのはディレクターだし…。
ん?俺って何やってるんだ?
実は、楽しい気分を味わっているのは「ディレクターのおこぼれ」をもらっているだけで『自分では何も生み出していない』という現実に気づきます。
(ADはあくまで後ろから見ている『傍観者』なのです)
・楽しそう
→ディレクターのおかげ
・芸能人に会える
→遠くから見てるだけ
・面白い番組を作りたい
→ディレクターの仕事
ということなんですよね、現実は…。
ADのうちは何もできないんです。
なので、
「私の意思・判断」で面白い番組を作りたい!
ADじゃなくてディレクターにならないと!
という思いに変わっていく人じゃないとADは続きません…。
僕はこの現実を就活中に知っておきたかったので、あえてここに書いておきます。気づくのが遅くて7年近くもADをやるハメになりました…。ディレクターになるだけなら特別な才能などはいらないので、ちゃんと勉強すれば誰でもなれます。
ADを辞めても転職できるから安心して!
テレビのADをやっていても特別なスキルは一切つかないのですが、辞めたADたちはしっかり転職できています。
あくまで僕の調べですが、辞めたADたちは誰もが知っているような一流企業に転職していきます。(すぐ辞めちゃった人は除く)
他業種の人たちから見ると「我慢強い」とか「体力がある」とか「面白そう」とか思ってもらえるらしく、面接でAD時代の話をするとめちゃくちゃ盛り上がるんだそうです。
あと、YouTubeやネット動画ではテレビのスキルが重宝されることがあります。簡単な編集や台本作りができるチーフクラスのADなら映像系に転職すれば即戦力で戦えることがあります。
(関連記事:人材流出!テレビを辞めてネット動画に転職するADたち)
転職はちゃんとできるので安心してください。
ディレクターになる意味はあるの?
最後に、ディレクターになる意味を書いておきます。
人ぞれぞれだと思うのでこれはあくまで僕の意見ですが、
「面白いから」なる意味はあります。
(曖昧ですみません。)
AD時代は
ディレクターになったら面白いのか?
と、半信半疑だったのですが、なってみたら面白かったのでラッキーでした。
特に僕が今やってる番組はプロデューサーが好きなように演出させてくれるので、作っていて楽しいです。
中には好きなように作れない番組もあります。若手のうちは演出の言うとおりにしなければならなかったり、プロデューサーがうるさかったり…。そういう番組ではディレクターになってもつまらないかもしれません。僕もフリーに成り立ての時はなんでも仕事を受けていたので全てが面白いわけではありませんでした。仕事を断るようになってから楽しくなりました。番組の雰囲気はプロデューサーや演出によって大きく変わります。自分に合う番組に巡り逢えるのは運もあります。
「誰と作るか?」もけっこう大切なんですよね。
ADのうちから一緒に作っていて楽しい相手を見つけておきましょう。
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